2025年6月20日、日本のITインフラを支えるさくらインターネット(東証プライム: 3778)から、市場を揺るがすビッグニュースが発表されました。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との間で、「日本語版医療特化型LLM(大規模言語モデル)の社会実装に向けた安全性検証・実証」に関する約45億円規模の受注契約を締結したのです。
この発表を受け、同社の株価は5日続伸を記録するなど、市場は大きな期待感に包まれています
この記事のポイントまとめ
- 大型国家プロジェクト受注: さくらインターネットがNEDOから「日本語版医療特化型LLM」開発プロジェクトを約45億円で受注。
- 株価は期待感で5連騰: 市場はこのニュースを好感し、株価は大幅に上昇。
- 医療DXの切り札: プロジェクトは、医師不足やデータ活用の課題を抱える日本の医療DXを加速させる目的を持つ。
- さくらインターネットの強み: 政府クラウド「ガバメントクラウド」での実績と、LLM開発に不可欠な大規模GPU基盤が評価された。
- 強力なパートナー: AI開発の雄、株式会社ABEJA (5574)が共同研究者として参画し、LLMシステム開発の中核を担う。
- 業績への影響: 受注額45億円のうち約20億円は26年3月期業績に織り込み済み。残る約25億円の貢献にも期待がかかる。
- 今後の展望と課題: プロジェクトの成功は日本の医療・創薬産業に革命をもたらす可能性がある一方、データの質や倫理面など乗り越えるべき課題も多い
関連銘柄はこれだ!プロジェクトを巡る主要プレイヤーたち
今回のニュースで動意づくのは、さくらインターネットだけではありません。関連する企業をチェックし、投資の視野を広げましょう。
銘柄コード | 会社名 | 市場 | 関連性 | 概要 |
---|---|---|---|---|
3778 | さくらインターネット | 東証プライム | 代表法人 | 本プロジェクトの主役。ガバクラとGPU基盤が強み。 |
5574 | ABEJA | 東証グロース | 共同研究者 | LLMシステム開発の中核を担うAIベンチャー。技術力に定評。 |
4593 | ヘリオス | 東証グロース | 医療AI関連 | 同じくNEDOの医療LLM実証事業に採択された再生医薬品バイオベンチャー。 |
9613 | NTTデータグループ ※上場廃止 | 東証プライム | 比較銘柄 (DC) | データセンター事業大手。政府機関や金融機関に強い。 |
9719 | SCSK | 東証プライム | 比較銘柄 (DC) | 国内有数の規模を誇るデータセンターを運営。 |
本命パートナー:ABEJA (5574)

今回のプロジェクトで、さくらインターネットと両輪をなすのがABEJAです。さくらインターネットが「土台(インフラ)」を提供するのに対し、ABEJAは「建物(AIシステム)」を建てる役割を担います。LLM案件の好調により2025年8月期中間決算では大幅な増収増益を達成しており、成長性の高さが魅力です。今回の契約締結は、同社の技術力と将来性に対するお墨付きとなり、今後の事業拡大に大きな弾みがつくと考えられます。
間接的に関連する銘柄:ヘリオス (4593)

再生医薬品を手掛けるヘリオスも、NEDOの「日本語版医療特化型LLM」に関する別の実証事業に採択されています。同社は脳梗塞治療薬の市販後調査にLLMを活用する実証を行うとしており、医療分野におけるLLM活用の具体的な動きとして注目されます。
比較銘柄:NTTデータグループ (9613)※上場廃止、SCSK (9719)
データセンターやクラウド事業という観点では、これらの企業が競合となります。特にNTTデータグループ※上場廃止は政府系案件に強く、ガバメントクラウドの領域では今後もさくらインターネットとしのぎを削る存在となるでしょう。これらの大手の動向と比較することで、さくらインターネットの立ち位置をより客観的に把握できます。
ニュースをわかりやすく深堀り!チェックしておきたい10のポイント
今回のニュースを正しく理解するために、重要なポイントを10項目に分けて深掘りしていきます。
1. そもそも「医療特化型LLM」とは何か?なぜ今必要なのか?
LLM(大規模言語モデル)は、ChatGPTなどで知られる文章生成AIの基盤技術です。これを医療分野に特化させたものが「医療特化型LLM」です。
現在の日本は、少子高齢化による医療需要の増大、医師や看護師の不足・過重労働、地域による医療格差といった深刻な課題を抱えています。これらの課題解決の切り札として、医療現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急務とされています。
医療特化型LLMは、以下のような役割を期待されています。
- 電子カルテデータの標準化: 病院ごとにバラバラな形式の電子カルテをAIが自動で解析・変換し、データ連携を容易にする。
- 診断・治療支援: 膨大な医学論文や症例データを学習し、医師の診断や治療方針の決定をサポートする。
- 創薬プロセスの高速化: 治験データの解析や被験者探しを効率化し、新薬開発のスピードを上げる。
このように、医療LLMは日本の医療システムが抱える構造的な問題を解決し、より質の高い医療を効率的に提供するための鍵となる技術なのです。
2. プロジェクトの具体的な目的:「電子カルテ」と「創薬」がカギ
今回のNEDOのプロジェクトが目指すのは、単なるAI開発ではありません。具体的な出口として「電子カルテデータの標準化」と「創薬支援」という2つの大きなユースケースを想定しています。
特に、日本の皆保険制度の下で蓄積された質の高い医療データを活用できていない現状は、大きな課題でした。異なる病院の電子カルテをLLMで繋ぎ、横断的なデータ分析を可能にすることで、個々の患者に最適な治療を提供する「個別化医療」の実現や、日本の国際競争力低下が懸念される「創薬力」の飛躍的な向上が期待されています。
3. なぜ「さくらインターネット」が選ばれたのか?
数あるIT企業の中で、なぜさくらインターネットがこの国家的なプロジェクトの代表法人に選ばれたのでしょうか。理由は大きく2つあります。
- 「ガバメントクラウド」での実績と信頼: さくらインターネットは2023年、政府が利用する共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」の提供事業者に、国内企業として初めて認定されました。これは、国のシステムを預かるに足る高いセキュリティと技術力を証明するものであり、今回の受注における最大の強みと言えるでしょう。
- 大規模な「GPUクラウド」基盤: LLMの開発・運用には、膨大な計算処理能力を持つGPU(画像処理装置)が不可欠です。さくらインターネットは、国内最大級のGPUクラウドサービスを提供しており、この計算資源(インフラ)を持つことが決定的な要因となりました。
つまり、さくらインターネットは「国の信頼」と「LLM開発に必要なインフラ」の両方を兼ね備えた、唯一無二の存在だったのです。
4. 強力タッグ!共同研究者「ABEJA (5574)」の正体
ABEJAは、LLMシステムの開発そのものを担当し、さくらインターネットが提供するインフラの上で、高性能な医療LLMを構築する役割を担います。ABEJAは、人とAIの協調や、不適切な出力を防ぐ「ガードレールシステム」など、LLMを安全に運用するための独自技術を多数保有しており、今回のプロジェクト成功に不可欠なパートナーです。この契約締結のニュースを受け、ABEJAの株価も年初来高値を更新しており、市場の期待の高さがうかがえます。
5. 受注総額「約45億円」のインパクトと業績への影響
受注総額は約45億円と報じられています。さくらインターネットの2025年3月期の売上高が約314億円だったことを考えると、そのインパクトの大きさが分かります。
ただし、注意点もあります。さくらインターネットの発表によると、この45億円の内訳は以下のようになっています。
- 約20億円: GPUクラウドサービスの計算資源提供にかかる費用。これは2026年3月期の業績予想に織り込み済み。
- 約25億円: 共同研究にかかる費用。これも2026年3月期に計上される見込みだが、現時点での業績予想の修正は予定していない。
つまり、短期的な業績の上方修正に直結するわけではありませんが、国からの安定した大型受注は、中長期的な成長基盤の強化に繋がる非常にポジティブな材料です。
6. 株価はなぜ「5日続伸」したのか?市場の期待を読み解く
今回の発表を受け、さくらインターネットの株価は5営業日続伸しました。この背景には、単なる45億円の受注という事実以上の「期待」があります。
- 国策企業としての地位確立: ガバメントクラウドに続き、医療という国の重要政策分野でも中核を担うことで、「国策銘柄」としての地位を不動のものにしたという評価。
- 成長ストーリーの再確認: 生成AIという最もホットな市場で、インフラ提供者として確固たるポジションを築いていることの証明。
- 将来のビジネス拡大への期待: 今回のプロジェクトで得られる知見や技術は、医療分野以外への横展開も期待でき、将来の大きな収益源になる可能性。
これらの期待感が複合的に作用し、株価を押し上げたと分析できます。
7. 乗り越えるべき壁:日本語医療LLM開発の技術的・倫理的課題
このプロジェクトは輝かしい未来を描いていますが、その道のりは平坦ではありません。主に3つの大きな課題があります。
- データの壁: 高品質な日本語の医療データは、英語圏に比べて圧倒的に量が少ないのが現状です。質の高い学習データをいかに確保するかが成功の鍵となります。
- 安全性の壁: 医療は人の命に関わるため、AIの回答の正確性や信頼性は極めて高いレベルで求められます。事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」のリスクをいかに低減し、判断の根拠を明確に示せるかが重要です。
- 倫理・プライバシーの壁: 患者の個人情報やプライバシーを厳格に保護する必要があります。ABEJAが設置する倫理委員会のような仕組みを通じて、客観的な視点から倫理的な課題に対応していくことが不可欠です。
8. プロジェクトが成功した未来:私たちの生活はどう変わる?
もしこのプロジェクトが成功すれば、私たちの医療体験は大きく変わる可能性があります。
- 患者: どの病院にかかっても、過去の自分の医療情報が正確に共有され、より安全で質の高い治療を受けられるようになる。PHR(パーソナルヘルスレコード)を通じて、自身の健康管理を主体的に行えるようになる。
- 医療機関: カルテ入力や書類作成などの事務作業が大幅に削減され、医師や看護師が本来の業務である患者との対話や治療に専念できる時間が増える。
- 製薬業界: 新薬の開発期間が短縮され、これまで治療が難しかった病気に対する新しい薬が、より早く患者の元に届くようになる。
9. 「NEDO」とは何者か?国家プロジェクトを支える影の立役者
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、日本の産業技術力や国際競争力の強化を目的とする国立研究開発法人です。将来の有望な技術シーズに対し、国として資金やノウハウを提供し、実用化を後押しする役割を担っています。過去にも水素エネルギー、次世代蓄電池、再生医療など、様々な分野で日本のイノベーションを支えてきました。今回のプロジェクトも、AIという国の未来を左右する重要技術に対する国家的な投資の一環と位置づけられます。
10. 投資家としての視点:短期的な熱狂と中長期的な成長性
さくらインターネットの株価は急騰しましたが、投資家としては冷静な視点も必要です。2026年3月期は、データセンターへの投資などがかさみ、減益予想となっています。短期的な株価は過熱感から調整する可能性もあります。
しかし、今回の受注は、同社が日本のデジタルインフラ、特に生成AI時代の中核を担う企業であることを改めて証明しました。中長期的な視点で見れば、今回のプロジェクトは同社の成長ストーリーをより強固にする、非常に重要なマイルストーンと言えるでしょう。
さくらインターネット!最近のニュース&材料
さくらインターネットと周辺の最新動向も押さえておきましょう。
さくらインターネット:投資先行で26年3月期は減益予想
株価は好調ですが、足元の業績は注意が必要です。2025年4月28日に発表された2026年3月期の連結業績予想では、売上高は増加するものの、データセンターへの積極的な投資が続くため、純利益は前期比18%減の24億円となる見通しです。これは将来の成長に向けた先行投資であり、中長期的な視点が必要となります。
医療AI市場の急成長予測
今回のプロジェクトの背景には、医療AI市場そのものの急拡大があります。複数の調査レポートによると、日本の医療AI市場は今後10年で数倍から数十倍の規模に成長すると予測されています。診断・診療支援AIシステムだけでも、2028年度には264億円規模に達するとの予測もあり、この巨大な成長市場に国策として乗り出す今回のプロジェクトの意義は非常に大きいと言えます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 今回の受注は、さくらインターネットの株価に今後どう影響しますか?
A1. 短期的には、期待感から上昇しましたが、過熱感もあり調整する可能性も否定できません。26年3月期の減益予想も株価の重しになるかもしれません。しかし、中長期的には、国策企業としての安定性と生成AIインフラの中核を担う成長性が再確認されたため、ポジティブな影響が期待されます。今回のプロジェクトの進捗が、今後の株価を左右する重要な要素となるでしょう。
Q2. 医療LLMが実用化されると、私たちの生活はどう変わりますか?
A2. 全国のどの病院でも質の高い医療を受けやすくなったり、これまで治療が難しかった病気の新薬が早く登場したりする可能性があります。また、医師の負担が減ることで、より丁寧な診察を受けられるようになることも期待されます。自分の健康情報をスマホなどで一元管理し、日々の健康増進に役立てる未来も近づくでしょう。
Q3. プロジェクト成功における最大の課題は何ですか?
A3. 技術的には「質の高い日本語医療データの確保」と「AIの安全性の担保」が大きな課題です。特に、個人情報保護や倫理的な配慮を徹底しながら、いかにしてAIに学習させるか、そのバランスが非常に重要になります。
Q4. さくらインターネット以外の注目すべき医療AI関連銘柄はありますか?
A4. 本文でも触れた共同研究者の「ABEJA (5574)」は最注目の銘柄です。また、同じくNEDOのLLMプロジェクトに採択された「ヘリオス (4593)」も動向が注目されます。その他、医療分野の画像解析AIなどで実績のある企業も、この流れに乗って注目される可能性があります。
Q5. 「ガバメントクラウド」とは何ですか?今回の受注とどう関係しますか?
A5. ガバメントクラウドは、日本の政府や地方自治体が共通で利用するために国が整備しているクラウドサービス環境のことです。さくらインターネットは、Amazon(AWS)やGoogle(GCP)といった海外巨大企業と並んで、国内で初めてこの提供事業者に認定されました。この実績が国からの高い信頼の証となり、今回の医療分野という重要機密情報を扱うプロジェクトの受注に繋がったと言えます。
Q6. 45億円の受注は、すべて今期の売上になりますか?
A6. いいえ。さくらインターネットの発表によると、受注総額約45億円は2026年3月期(来期)の業績に計上される見込みです。そのうち約20億円はすでに業績予想に織り込まれていますが、残りの約25億円はまだ反映されていません。ただし、現時点で業績予想の修正は発表されていません。
Q7. ABEJAとはどんな会社ですか?
A7. 株式会社ABEJAは、2012年創業のAI、特にLLMの社会実装を支援する「デジタルプラットフォーム事業」を展開する企業です。創業以来、ディープラーニング技術の研究開発に注力し、企業の基幹業務へのAI導入で多くの実績を持っています。今回のプロジェクトでは、その高い技術力を活かして医療LLMシステムの開発を担う、非常に重要なパートナーです。
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