
2025年7月8日、クリエイターエコノミーの中核を担うnote株式会社(銘柄コード:5243)が、市場の注目を集める2025年11月期第2四半期の決算を発表しました。発表直後、株価は+5.26%と急騰し、投資家の期待感の高さが示されました。
決算内容は「連結経常利益が前年同期比2.3倍」という衝撃的な数字。しかし、その裏側には手放しでは喜べない事実も隠されています。
この記事では、発表されたばかりの決算内容をどこよりも速く、そして深く徹底的に分析します。ポジティブな面、ネガティブな面を公平に評価し、10段階評価で決算を斬ります。さらに、株価を動かすAI戦略の最新動向や、今後の上方修正の可能性、そして短期的な目標株価まで、専門的な視点から徹底解説します。
この記事の結論まとめ
- 好決算達成: 2Q累計の経常利益は前年同期比2.3倍の3,500万円と大幅増益
- 進捗は順調: 通期計画8,000万円に対する進捗率は43.8%と、前年同期の20.0%を大きく上回る
- 下期に潜む懸念: 通期計画据え置きのため、計算上下期は前年比25.0%の減益見込みとなる
- 収益性の課題: 直近3ヶ月の売上営業利益率は1.8%と、前年同期の2.3%から悪化
- AI戦略が鍵: Googleとの提携を軸としたAI戦略の進展が、今後の株価を左右する最大の要因
- 株価は期待先行: PER220倍超と指標は割高で、業績よりも将来の成長期待で株価が形成されている
関連・比較銘柄リスト
- ココナラ (4176): noteが筆頭株主となったスキルマーケット運営企業
- ANYCOLOR (5032): VTuber事務所「にじさんじ」を運営。IPビジネスの観点で比較対象
- はてな (3930): ブログサービス「はてなブログ」などを運営するコンテンツプラットフォームの競合
- ファインズ (5125): 動画マーケティング支援。デジタルコンテンツ関連として比較
ニュースをわかりやすく深堀りして解説
2025年7月8日の取引終了後15:30に発表されたnoteの2025年11月期第2四半期(2024年12月~2025年5月)の決算は、市場にポジティブなサプライズをもたらしました。まずは、その詳細を紐解いていきましょう。
結論:見た目は「絶好調」、しかし「下期の不安」も残る二面性のある決算
今回の決算を一言で評価するなら、「ヘッドラインは力強いが、細部には注意が必要な決算」です。
連結経常利益が前年同期比で2.3倍の3,500万円に急拡大したという事実は、非常にインパクトがあります。これは、noteのプラットフォームが着実に収益を生み出す力をつけている証拠と言えるでしょう。
しかし、同時に発表された通期の業績予想は据え置かれました。これが意味するのは、会社側が現時点では下期の業績に対して慎重な姿勢を崩していないということです。単純計算すると、下期(6月~11月)の経常利益は4,500万円となり、前年同期比で25.0%の減益となる見込みです。この「下期失速」の可能性が、投資家心理の重しとなる可能性があります。
決算詳細分析:光と影
今回の決算のポイントを、具体的な数値と共に詳しく見ていきましょう。
決算項目 | 2Q累計実績 (24年12月-25年5月) | 前年同期比 | 通期計画 (25年11月期) | 進捗率 |
---|---|---|---|---|
売上高 | 9億5,700万円 (1Q時点) | +19.0% (1Q時点) | 40億1,000万円 | 23.9% (1Q時点) |
営業利益 | — | — | 6,000万円 | — |
経常利益 | 3,500万円 | +130% (2.3倍) | 8,000万円 | 43.8% |
純利益 | — | — | 1億1,000万円 | — |
【光:ポジティブな側面】
- 驚異的な利益成長: 経常利益が前年の1,500万円から3,500万円へと2.3倍に増加した点は、最大の評価ポイント
- 高い進捗率: 通期計画8,000万円に対する進捗率は43.8%に達し、前年同期の20.0%を大きく上回る
- 直近3ヶ月の勢い: 3-5月期(2Q)単体で見ても、経常利益は前年同期比52.6%増の2,900万円と力強い成長
【影:ネガティブな側面】
- 下期減益の可能性: 通期計画が据え置かれたことで、下期の業績鈍化が懸念される
- 収益性の悪化: 3-5月期の売上営業利益率が前年同期の2.3%から1.8%へと悪化
- 依然として低い利益水準: 時価総額約249億円の企業に対して、通期の経常利益計画が8,000万円
決算評価:10段階評価で「6点」
これらの光と影を総合的に判断し、今回の決算を10段階評価で「6点」と評価します。
加点要素として、計画を大幅に上回る利益進捗と、2Q単体の力強い成長は高く評価できます。市場の期待に一部応える内容でした。一方で減点要素として、通期予想の据え置きがもたらす下期への不安感と、利益率の低下は無視できません。
総じて、「期待通り順調だが、サプライズ上方修正には至らず、今後の課題も見える」という評価が妥当でしょう。
上方修正の可能性と短期トレードの目標株価
投資家が最も気になるのは、「この決算を受けて株価はどう動くのか?」そして「上方修正はあり得るのか?」という点でしょう。
上方修正の可能性は「低い」が、AI戦略が化ければ…
現時点での通期業績予想の上方修正の可能性は「低い」と考えられます。
会社側が今回、通期予想を据え置いたという事実がその最大の根拠です。もし確度の高い上振れが見込めるのであれば、このタイミングで何らかのアナウンスがあったはずです。下期に計画的な投資を予定している可能性も高く、保守的な見通しを維持したと考えるのが自然です。
ただし、可能性がゼロではありません。上方修正のトリガーとなり得るのは、以下のシナリオです。
- AI関連の新サービスが想定を上回るスピードで収益化に成功した場合
- 筆頭株主となったココナラとのシナジーが早期に発現し、新たな収益源が生まれた場合
- プラットフォームの流通総額(GMV)が爆発的に増加した場合
特に、Googleとの提携を軸としたAI戦略が「化ける」かどうかが最大の鍵となります。
短期トレードの目標株価:上値1,800円、下値1,300円の攻防
今回の決算発表を受け、株価は7月8日に1,499円まで上昇しました。この勢いが続くのか、テクニカルとファンダメンタルズの両面から分析します。
【テクニカル分析】
2025年初頭にGoogleとの提携発表で2,909円の年初来高値を付けた後、株価は調整局面が続いていました。今回の決算は、この下落トレンドに歯止めをかけるきっかけになる可能性があります。
- 上値目途: まずは心理的節目の1,500円を固め、6月の高値圏である1,650円前後が第一目標
- 下値目途: 下期減益懸念が意識された場合、直近の安値圏である1,400円、その下の1,300円が意識される
【ファンダメンタルズ分析】
指標 | 数値 | 評価 |
---|---|---|
PER(株価収益率) | 約226倍 | 東証グロース市場の平均と比較しても非常に割高 |
PBR(株価純資産倍率) | 約10.4倍 | 割高感がある |
アナリスト評価 | 「強気売り」目標株価1,160円 | 現在の株価を大きく下回る |
短期目標株価:強気シナリオ1,800円、弱気シナリオ1,300円のレンジを想定
最近のニュース&材料:株価を動かす未来への布石
現在のnoteの株価は、決算の数字以上に、将来への期待を織り込んで動いています。その期待の源泉となっている最新のニュースと材料を深掘りします。
最重要テーマ:AI戦略が拓く創作の未来
noteの成長戦略の核となるのがAI戦略です。2025年1月に発表されたGoogleとの資本業務提携はその象徴であり、株価を500円台から一時2,900円超まで急騰させる起爆剤となりました。
7月7日に公開されたCEOの加藤氏とCXOの深津氏の対談では、そのビジョンが具体的に語られています。
- AIは創作のパートナー: AIを単なる効率化ツールではなく、クリエイターの創造性を拡張する「パートナー」と位置づけ
- パーソナルAIの可能性: ユーザーが書き溜めた日記や記録をAIに学習させ、自分だけの創作パートナーや相談相手を生み出す構想
- 「歴史」の価値: AIに代替されない価値として「個人の歴史(記録)」を挙げ、noteがその記録の場としての重要性を増す
このAI戦略が成功すれば、noteは単なるコンテンツ投稿サイトから、唯一無二の「AI創作支援プラットフォーム」へと進化する可能性を秘めています。
プラットフォームの拡大:会員数1,000万人突破
2025年6月、noteの会員登録者数が1,000万人を突破したことが発表されました。2014年のサービス開始から8年で500万人、そこからわずか3年で倍増したことになり、プラットフォームの成長が加速していることを示しています。
KPI項目 | 2025年2月時点 | 前年同期比 |
---|---|---|
会員数 | 938万人(6月に1,000万人突破) | +20.7% |
公開コンテンツ数 | 5,462万件 | +28.3% |
累計ユニーククリエイター数 | 161万人 | +20.6% |
月間アクティブユーザー(MAU) | 7,359万 | — |
事業領域の拡大:ココナラ筆頭株主化と資金調達
noteはプラットフォーム内部の成長だけでなく、外部との連携も積極的に進めています。
- ココナラ(4176)の株式取得: 2025年4月、個人のスキルを売買するマーケットプレイス「ココナラ」の株式を取得し、筆頭株主となった
- 7億円の資金調達: 2025年6月には、事業拡大を目的とした7億円の借入を実施
詳細財務分析と同業他社比較
四半期ベースおよび通期業績動向
2025年11月期第1四半期(12~2月)業績では、売上高9.57億円(前年同期比+19.0%)と第1四半期として過去最高を記録し、営業利益500万円(前年同期は▲700万円)と黒字転換しました。
この四半期で5四半期連続の黒字を達成し、note事業(個人向けプラットフォーム)および法人向け「note pro」事業の拡大が利益改善に寄与しています。前年からの黒字化要因として売上成長率(19.0%)が費用増加率(16.7%)を上回った点が大きく、効率的なコスト管理が奏功しました。
事業セグメント別の成長性と収益性
事業セグメント | 2025年1Q売上高 | 前年同期比 | セグメント利益 | 前年同期比 |
---|---|---|---|---|
メディアプラットフォーム事業 | 9.41億円 | +17.0% | 2,200万円 | +255.5% |
IP・コンテンツ創出事業 | 小規模 | — | ▲1,700万円程度(推定) | — |
メディアプラットフォーム事業は5四半期連続で黒字を計上しており、新規ユーザー・コンテンツ増による手数料収入拡大と、ネットワーク効果を活かした効率的なマーケティングで利益率が改善しています。
同業他社との比較
企業名 | 時価総額 | 特徴 | 収益性 |
---|---|---|---|
note (5243) | 約250億円 | 文章系クリエイターの総合プラットフォーム | 営業利益率約1-2% |
はてな (3930) | 約43億円 | ブログサービス・技術サービス | 営業利益率約9.6% |
ピクシブ(非上場) | — | イラスト・漫画特化、登録ユーザー1億人 | 非公表 |
noteは成長優先でPSR(株価売上高倍率)約6倍超と高いバリュエーションが付いていますが、一方のはてなはPSR約1倍強と割安に見える水準です。
よくある質問
- 経常利益が2.3倍も増えたのに、なぜ株価はPTSでストップ高にならなかったのですか?
-
理由は主に2つあります。1つは、通期の業績予想が据え置かれたことで、計算上「下期は減益になる」という懸念が生まれたためです。もう1つは、PER200倍超という極めて割高な株価水準であり、今回の好決算はある程度織り込み済みだったと考えられるからです。市場は、単なる増益だけでなく、予想を上回る「サプライズ」や「新たな成長ストーリー」を求めています。
- 今からnoteの株を買うのはアリですか?
-
投資スタンスによります。株価の変動が非常に激しい(ボラティリティが高い)銘柄のため、短期的な売買で利益を狙うのは上級者向けです。長期的な成長を信じて投資するのであれば、慌てて高値で買うのではなく、市場全体の調整などで株価が下落した「押し目」を待つのが賢明でしょう。例えば、アナリストの目標株価である1,160円や、テクニカル的な節目である1,300円などが一つの目安になるかもしれません。
- Googleとの提携は、具体的にどんなメリットがあるのですか?
-
現時点で発表されているのは、GoogleのAI技術を活用して、noteのサービスを強化していくという方向性です。具体的には、クリエイターの記事作成を支援する機能、読者にとって最適なコンテンツを見つけやすくする機能などが考えられます。まだ具体的なサービスは発表されていませんが、この提携の進展が今後の株価を左右する最重要材料の一つです。
- アナリストの目標株価が1,160円と、今の株価よりかなり低いのはなぜですか?
-
アナリストは通常、企業の現在の収益力や将来の利益予想を基に「理論株価」を算出します。noteは現在、利益が非常に小さいグロース(成長)段階にあるため、純粋な業績ベースで計算すると株価は割高と評価されがちです。アナリスト評価は、現在の株価が「期待先行」であることを示す一つの指標と捉えるのが良いでしょう。
- noteに配当や株主優待はありますか?
-
2025年7月現在、noteに配当や株主優待の制度はありません。同社は現在、利益を株主に還元するよりも、事業成長のために再投資することを優先するフェーズにあります。将来的に事業が成熟し、安定的に高い利益を出せるようになれば、配当が開始される可能性はあります。
- noteへの投資における最大の魅力と最大のリスクは何ですか?
-
最大の魅力は、「AI×クリエイターエコノミー」という巨大な成長市場で中心的な役割を担うポテンシャルです。Googleとの提携を追い風に、他に類を見ないプラットフォームへ進化できれば、株価は現在の水準からさらに大きく上昇する可能性があります。一方、最大のリスクは、その高すぎる期待そのものです。AI戦略が市場の期待ほど進まなかったり、業績の伸びが鈍化したりした場合、織り込まれていた期待が剥落し、株価が大きく下落する可能性があります。まさにハイリスク・ハイリターンの銘柄と言えます。
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