2025年7月1日、ホームセンター大手のアークランズ(東証プライム:9842)が2026年2月期第1四半期(3-5月期)の決算を発表しました。結果は「増収減益」。売上は伸びたものの、経常利益は前年同期比で13.6%の減少となり、市場に衝撃が走りました。
この記事では、最新の決算内容を誰にでも分かりやすく徹底的に分析し、「なぜ減益になったのか?」「今後の株価はどうなるのか?」「今、アークランズは買い時なのか?」といった投資家の疑問に、最新のデータと多角的な視点からお答えします。
競合他社との比較や、最近の注目すべきIR情報、将来性まで、この記事一本でアークランズの「今」と「未来」が全てわかるように解説していきます。
この記事のポイントまとめ
- 1Q決算は増収減益: 売上は2.5%増も、経常利益は13.6%減
- 利益圧迫の正体: 光熱費や人件費などの販売管理費の増加が主因
- 通期予想は維持: 会社は下期での挽回を見込むが、進捗率は低め
- 事業の明暗: ホームセンター事業が苦戦する一方、外食事業は好調
- 株価は割安水準か?: PBRは1倍を割り、同業他社比較でも割安感あり
- 将来への布石: ペット事業強化や「ロピア」との連携など成長戦略も進行中
関連・比較銘柄リスト
- DCMホールディングス(3050): 業界2位。EC事業の強化が著しい
- コメリ(8218): 新潟発祥の同郷企業。農家向けに強み
- コーナン商事(7516): 関西地盤。プロ向け業態が好調
- ジョイフル本田(3191): 超大型店が特徴。アークランズが過去に大株主だった
- カインズ(非上場): 業界売上高トップを走る絶対的王者
- アレンザホールディングス(3546): 「ダイユーエイト」「タイム」などを展開
- ナフコ(2790): 九州地盤。家具とホームセンターの複合店に強み
ニュースをわかりやすく深堀りして解説
2025年7月1日に発表されたアークランズの第1四半期決算。まずは、その数字を詳しく見ていきましょう。
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 1株益(円) |
---|---|---|---|---|---|
25年3-5月期 (今回) | 81,526 | 4,214 | 4,308 | 2,885 | 46.3 |
24年3-5月期 (前年) | 79,540 | 4,939 | 4,987 | 3,108 | 49.9 |
前年同期比 | +2.5% | -14.7% | -13.6% | -7.2% | -7.2% |
※単位:百万円(1株益を除く)
結論はコレ:売上は伸びたが、コスト増が利益を食いつぶした

今回の決算を一言で表すなら「増収減益」です。
売上高は前年同期比で2.5%増加し、815億円を超えました。これは、2020年に買収した「ビバホーム」との統合効果が継続していることや、子会社が運営する「かつや」などの外食事業が好調を維持していることが要因です。
しかし、問題は利益面です。本業の儲けを示す営業利益は14.7%減、経常利益は13.6%減と、2桁のマイナスを記録しました。売上営業利益率も、前年同期の6.2%から5.2%へと1.0ポイント悪化しており、収益性が低下していることが明確に示されています。
なぜ減益になったのか?3つの要因を深掘り
では、なぜ利益がこれほどまでに減少してしまったのでしょうか。主な要因は以下の3つに集約できます。
販売管理費の増加という逆風
最大の要因は、電気代などの光熱費や人件費の高騰です。これらは企業努力だけでは吸収しきれないコスト増であり、売上から得た利益を直接的に圧迫しました。これはアークランズに限らず、多くの小売業が直面している共通の課題です。
消費者の「生活防衛意識」の高まり
物価上昇が続く中、消費者の節約志向、いわゆる「生活防衛意識」が強まっています。特に、趣味や余暇に関連する商品の買い控えが目立ち、アークランズの報告でも園芸用品などの売上が苦戦したことが指摘されています。生活必需品は売れるものの、利益率の高い付加価値商品が売れにくくなっている状況がうかがえます。
ホームセンター事業の伸び悩み
アークランズの事業は大きく分けて「小売事業(ホームセンターなど)」と「外食事業」などから構成されます。今回の決算では、収益の柱であるホームセンター事業が前述のコスト増と消費マインドの低下というダブルパンチを受け、苦戦を強いられました。一方で、とんかつ専門店「かつや」などを展開する外食事業は引き続き好調で、全社的な減益幅をある程度下支えする形となりました。この事業ポートフォリオの多様性が、アークランズの強みの一つとも言えます。
今後の見通しは?「通期予想据え置き」の真意
厳しい第1四半期決算にもかかわらず、アークランズは2026年2月期通期の業績予想を据え置きました。
通期連結業績予想(2026年2月期)
- 売上高:3,350億円
- 営業利益:193億円
- 経常利益:190億円
- 当期純利益:116億円
これは、会社側が「下半期で巻き返しが可能」と見ていることを意味します。しかし、第1四半期終了時点での上期計画(経常利益98億円)に対する進捗率は44.0%にとどまっています。これは過去5年間の平均進捗率である47.9%を下回る水準であり、計画達成へのハードルは決して低くありません。
投資家としては、会社側の強気な見通しを鵜呑みにせず、今後の月次売上動向や第2四半期決算を注意深く見守る必要があります。
関連銘柄はこれだ!ホームセンター業界の覇権争いとアークランズの立ち位置
アークランズを理解するためには、競争の激しいホームセンター業界全体を俯瞰することが不可欠です。
業界は、非上場の巨人カインズを筆頭に、DCMホールディングス、コーナン商事、コメリ、そしてアークランズがトップ5を形成しています。
主要競合他社との徹底比較
各社の特徴と最新の株価指標を比較してみましょう。(株価・指標は2025年7月1日時点のデータに基づく)
企業名 (コード) | 時価総額 (億円) | PER (倍) | PBR (倍) | 配当利回り (%) | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
アークランズ (9842) | 1,101 | 10.9 | 0.91 | 2.29 | ビバホーム買収で急拡大。外食事業も展開 |
DCM (3050) | 2,000 | 10.0 | 0.70 | 3.01% | 業界2位。PB商品とM&A、EC強化に積極的 |
コメリ (8218) | 1,440 | 9.8 | 0.59 | 1.93% | 農業・園芸に強み。小型店を全国に展開 |
コーナン商事 (7516) | 1,490 | 8.8 | 0.76 | 2.22% | プロ向け業態「コーナンPRO」が成長ドライバー |
ジョイフル本田 (3191) | 740 | 12.1 | 0.88 | 2.92% | 関東地盤の超大型店が特徴。専門性が高い |
この表から、アークランズの立ち位置が見えてきます。
評価の妥当性: PER(株価収益率)は業界平均レベルですが、PBR(株価純資産倍率)は0.91倍と、会社の解散価値とされる1倍を割り込んでいます。これは、市場が同社の資産価値に対して株価を割安に評価している可能性を示唆しています。特に、財務が堅牢なコメリやDCMはさらに低いPBRとなっており、業界全体が成長期待の低さから割安に放置されている傾向があります。
収益の多角化: 他の競合がホームセンター事業に特化しているのに対し、アークランズは「かつや」という強力な外食チェーンを傘下に持つことが最大の特徴であり、リスク分散と収益機会の拡大に繋がっています。
アークランズの強みと今後の課題
【強み】
- 規模の経済: 2020年のLIXILビバ(現ビバホーム)買収により、売上高は業界トップクラスに躍り出ました。これにより、仕入れコストの削減や物流の効率化といった規模のメリットを享受できます
- プロ向け事業: 「ムサシプロ」や「ビバホームプロ」といったプロ職人向けの業態は、景気変動の影響を受けにくく、安定した収益源となります
- 収益の多角化: 前述の通り、好調な外食事業が小売事業の変動をカバーする構造は、経営の安定性を高めています
【今後の課題】
- 統合シナジーの最大化: ビバホームとの統合から数年が経過し、今後はシステム統合や店舗運営の効率化など、真の意味でのシナジーを創出し、収益性を向上させることが急務です
- EC・デジタル化への対応: 競合のDCMがEC専門企業を買収するなどデジタル化を急ぐ中、アークランズもオンラインとオフラインを融合させたOMO(Online Merges with Offline)戦略の加速が求められます
- 消費マインドの回復待ち: 外部環境である消費者の節約志向は、同社だけではコントロールできません。インフレが落ち着き、消費マインドが上向くのを待つ忍耐も必要になります
最近のニュース&材料:減益決算だけじゃない!アークランズの未来を占う3つの重要トピック
今回の減益決算の裏で、アークランズは着々と未来への布石を打っています。株価を左右する可能性のある、直近の重要な材料を3つご紹介します。
1. 【財務強化】ジョイフル本田株の売却で24億円の利益確定 (2024年11月)
アークランズは2024年11月、保有していた競合のジョイフル本田(3191)の株式を売却し、約24億1900万円の投資有価証券売却益を計上すると発表しました。これは、本業とは別の「営業外収益」として利益を大きく押し上げ、財務体質の強化に繋がります。戦略的な資産の入れ替えであり、得られた資金を成長分野へ再投資することが期待されます。
2. 【成長戦略】ペット事業を強化!Pets First HDを完全子会社化 (2025年2月)
市場が拡大を続けるペット分野への投資も加速させています。2025年2月、ペット販売や病院運営を手がける「Pets Firstホールディングス」を完全子会社化しました。これにより、自社で展開するペット専門店「NICO PET」とPets First社のノウハウを融合させ、ペット事業における競争力を一層強化する狙いです。ホームセンター事業との相乗効果も期待できる、将来性の高い一手と言えるでしょう。
3. 【集客力向上】「食のテーマパーク」ロピアとの連携 (2025年5月)
2025年5月23日、アークランズは「ホームセンタームサシ新潟店」内に、人気の激安食品スーパー「ロピア」をオープンさせました。これは「食」という強力な集客コンテンツを自社店舗内に取り込むことで、ホームセンターへの来店客数を増やし、売上全体の底上げを狙う戦略です。「ついで買い」を誘発する相乗効果は絶大で、今後の他店舗への展開も期待されます。
これらの動きから、アークランズが目先の業績だけでなく、中長期的な成長を見据えて多角的な戦略を展開していることがわかります。
FAQ
- 今回の減益決算を受けて、アークランズの株は「売り」ですか?
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短期的な視点では、利益の減少や計画進捗の遅れはネガティブな材料であり、株価の上値を重くする可能性があります。しかし、中長期的な視点では、PBRが1倍を割るなど株価には割安感があり、外食事業の安定性やペット事業などの成長戦略も進行中です。すぐに売却を判断するのではなく、今後の業績回復の兆しや、打ち出している成長戦略の進捗を見極めるのが賢明でしょう。
- アークランズの株主優待の内容と利回りを教えてください。
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アークランズは株主優待を実施しており、保有株式数に応じて自社店舗や「かつや」などで使える優待券がもらえます。権利確定月は2月と8月です。2025年7月1日時点の株価(1,741円)と年間配当(40円予定)で計算すると、配当利回りは約2.29%です。これに株主優待の価値を加味すると、総合的な利回りはさらに高まります。
- なぜ会社は厳しい状況でも通期の業績予想を据え置いたのですか?
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会社側が下半期に業績が回復すると見込んでいるためです。具体的な回復シナリオとしては、①光熱費などのコスト上昇が一段落すること、②ボーナス商戦など下期の需要期での販売強化、③ビバホームとの統合効果がさらに発現すること、などが考えられます。ただし、前述の通り進捗率は低いため、投資家は楽観視せず、今後の動向を注視する必要があります。
- 「かつや」の外食事業は、アークランズの業績にどれくらい影響しますか?
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非常に大きな影響を与えています。「かつや」などを運営する子会社アークランドサービスホールディングスは、アークランズの連結業績において重要な収益源です。今回の決算でも、ホームセンター事業が苦戦する中で外食事業が好調だったことが、全体の減益幅を抑制する要因となりました。アークランズを分析する上で、外食事業の動向は常にチェックすべき重要項目です。
- 今後のアークランズの株価を見る上での注目点は何ですか?
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以下の3点が重要です。①月次売上高の推移: 会社の業績回復ペースを測る最も早い指標です。特に既存店の売上高に注目です。②第2四半期決算(2025年10月頃発表予定): 上期計画を達成できるか、通期予想に修正が入るかどうかが最大の焦点となります。③金利動向と消費マインド: 日本銀行の金融政策や物価の動向が、消費者の節約志向に影響を与え、ひいては同社の業績と株価を左右します。
- 競合のDCMやコメリと比べて、アークランズの投資妙味は何ですか?
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DCMやコメリがホームセンター事業に集中しているのに対し、アークランズは「小売+外食+α」という複合的な事業ポートフォリオが最大の魅力です。これにより、特定の業界の不振を他の事業で補うことができ、経営の安定性が高いと言えます。また、ビバホーム買収による規模拡大と、ペット事業や「ロピア」連携といった新たな成長戦略への積極性も、将来的な株価上昇を期待させる面白い要素です。割安な株価水準で、こうした複数の成長ストーリーに投資できる点が妙味と言えるでしょう。
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