- 日米豪印(クアッド)が重要鉱物の供給網構築で連携を強化。
- 狙いはハイテク産業に不可欠なレアアース等の中国依存低減。
- 「都市鉱山」活用が協力の柱、東南アジア等への技術支援も視野。
- 経済安全保障上の重要テーマとして、関連銘柄への期待が急上昇。
注目の関連銘柄リスト
- 信越化学工業 (4063): レアアース磁石で世界大手、半導体材料も世界一。
- TDK (6762): 電子部品大手、磁気ヘッドや二次電池で世界トップ級。
- 双日 (2768): 総合商社、レアアースなど資源ビジネスに豊富な実績。
- DOWAホールディングス (5714): 非鉄大手、環境・リサイクル事業に強みを持つ。
- 大同特殊鋼 (5471): 世界最大級の特殊鋼メーカー、高性能磁石も手掛ける。
- アサカ理研 (5724): 都市鉱山のパイオニア、貴金属リサイクルの専門企業。
ニュースをわかりやすく深堀りして解説

2025年7月1日、ワシントンで開かれた日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド(Quad)」の外相会合で、世界の経済安全保障を揺るがす重要な決定が下されました。それは、電気自動車(EV)やスマートフォン、最先端兵器にまで不可欠な「重要鉱物」と「レアアース(希土類)」のサプライチェーン(供給網)構築で、4カ国が緊密に協力していくという合意です。
この動きは、単なる経済協力に留まりません。世界のレアアース生産の約7割を握り、それを外交カードとして利用してきた中国への依存から脱却し、自由で開かれたインド太平洋地域における経済的安定を確保するための、極めて戦略的な一手と言えます。
結論はコレ:中国依存からの脱却と「都市鉱山」という新たな金脈
今回のクアッドの合意の核心は、大きく分けて2つあります。
脱・中国依存のサプライチェーン構築
中国は過去に、尖閣諸島を巡る対立で日本へのレアアース輸出を規制(2010年)したり、米国の関税への対抗措置として輸出規制を発動(2025年4月)したりと、その圧倒的なシェアを武器に国際社会へ圧力をかけてきました。クアッド4カ国は、こうした地政学リスクを深刻に懸念しており、「重要鉱物イニシアチブ」を新たに立ち上げ、中国一国に頼らない多様で強靭な供給網を構築することを目指します。
「都市鉱山」活用の本格化
今回の協力策の具体的な柱として急浮上しているのが「都市鉱山」の活用です。都市鉱山とは、私たちが日常的に使っているスマートフォンやパソコン、家電製品など、廃棄された電子機器の山を「鉱山」に見立て、そこから金、銅、そしてレアアースといった有用な金属を回収・再利用するコンセプトです。
特に日本は、電子基板などから不純物を取り除き、高純度の金属を回収する世界トップクラスの技術を持っています。この日本の技術を活かし、日米豪印が連携して、大量の電子ゴミを抱える東南アジア諸国などに技術支援を行うことで、新たな資源調達ルートを開拓する構想が描かれています。
この壮大な構想は、これまで見過ごされてきた「ゴミの山」を「黄金の山」に変える可能性を秘めており、株式市場では既に関連銘柄への期待が爆発的に高まっています。
クアッド各国の役割分担とシナジー
この協力体制において、クアッド4カ国はそれぞれの強みを活かした役割を担うことになります。
- オーストラリア: 世界有数の資源大国。EVバッテリーに不可欠なリチウムの世界最大の産出国であり、亜鉛や半導体材料となるゲルマニウム、ガリウムも豊富です。まさに供給網の上流を担う存在です。
- 日本: 世界最高水準の精錬・加工技術を保有。特に「都市鉱山」からのレアアース回収や、高性能なレアアース磁石の製造技術は他国の追随を許しません。サプライチェーンの中流から下流にかけて中核的な役割を果たします。
- アメリカ: 世界最大の経済大国として、豊富な資金力と巨大な市場を提供します。また、トランプ政権は国内の鉱業・鉱物処理を優先する大統領令も出しており、国を挙げてこの問題に取り組む姿勢を示しています。
- インド: 急成長する巨大市場であり、新たな製造拠点としてのポテンシャルを秘めています。また、国営企業を通じて海外の鉱物資源確保にも積極的に動いています。
これらの国々が連携することで、探査・採掘から精錬・加工、そして製品化に至るまで、中国を介さない一気通貫のサプライチェーンが完成する可能性があり、その経済的・戦略的インパクトは計り知れません。
関連銘柄はこれだ!注目の上場企業を徹底分析
この国家的な一大プロジェクトの恩恵を直接受ける可能性のある、注目の関連銘柄をカテゴリー別に徹底分析します。2025年7月2日の市場では、このニュースを受けて多くの関連銘柄の株価が大きく動きました。
カテゴリー1:レアアース製造・磁石関連(本命筋)
レアアースそのものや、それを利用した高性能磁石を製造する企業群。今回の協力体制で中核を担う存在です。
信越化学工業 (4063)
企業概要: 塩化ビニル樹脂と半導体シリコンウエハーで世界首位を誇る化学メーカー。同時に、EVモーターや各種電子機器に不可欠なレアアース磁石でも世界トップクラスのシェアを持ちます。
注目ポイント: レアアースの安定調達は同社の生命線。クアッドの協力体制は、事業リスクを低減させ、さらなる成長を後押しする強力な追い風となります。また、中国がリスクと考える重希土類を使わない磁石の開発にも成功しており、技術力でも他を圧倒しています。2025年3月期決算では増収増益を達成するなど、業績も好調です。
TDK (6762)
企業概要: 1935年創業の大手電子部品メーカー。HDD向け磁気ヘッドで世界トップシェアを誇るほか、スマートフォン内蔵バッテリーでも世界首位級です。フェライトなどの磁性材料技術に定評があります。
注目ポイント: 磁性技術はTDKの祖業であり、レアアースは同社のコア技術と密接に関連しています。エナジー応用製品が好調で、2025年3月期には過去最高の売上高・営業利益を更新しました。サプライチェーンの安定化は、同社の収益基盤をさらに強固なものにするでしょう。
大同特殊鋼 (5471)
企業概要: 世界最大級の特殊鋼メーカーで、自動車向けが売上の約6割を占めます。航空機や産業機械向けにも強みを持ちます。
注目ポイント: 同社は高性能ネオジム磁石「ダイドーマックス」を製造しており、レアアース関連銘柄として確固たる地位を築いています。特に、EV化の流れで需要が拡大するモーター用磁石の安定供給に貢献することが期待されます。
カテゴリー2:都市鉱山・リサイクル関連(ダークホース)
廃棄された電子機器から貴金属やレアメタルを回収する企業群。今回の「都市鉱山」活用方針で、最も直接的な恩恵を受ける可能性があります。
DOWAホールディングス (5714)
企業概要: 非鉄金属の大手ですが、特筆すべきは環境・リサイクル事業です。廃棄物処理から土壌浄化、貴金属リサイクルまで幅広く手掛け、この分野のリーディングカンパニーです。
注目ポイント: まさに「都市鉱山」のプロフェッショナル。国内外から集めた電子基板などから金、銀、銅、パラジウムといった貴金属を高効率で回収する技術を持っています。クアッドが推進する海外での都市鉱山開発において、同社の技術とノウハウが求められる場面は非常に多いでしょう。
アサカ理研 (5724)
企業概要: 電子部品の不良品やスクラップから金や白金などの貴金属を抽出・精錬する事業を専門としています。独自の化学処理技術に強みを持ちます。
注目ポイント: 「都市鉱山」というテーマのど真ん中に位置する銘柄です。今回の報道を受けて、2025年7月2日の株価は一時ストップ高に迫る勢いで急騰しました。時価総額が比較的小さいため、大きな材料が出た際の株価の瞬発力は非常に魅力的です。金や銅の相場上昇を背景に、直近の中間決算では大幅な増収増益を達成しています。
カテゴリー3:商社・資源開発関連
海外での資源権益の確保や、サプライチェーン構築に欠かせない総合商社や専門企業です。
双日 (2768)
企業概要: ニチメン、日商岩井が母体の総合商社。自動車、航空機、資源、化学など幅広い分野で事業を展開しています。
注目ポイント: 商社として、海外での資源開発プロジェクトや物流網構築のノウハウが豊富です。過去にはオーストラリアのレアアース会社ライナス社への出資実績もあり、この分野での知見を持っています。クアッドの枠組みで新たな資源プロジェクトが立ち上がれば、同社が重要な役割を担う可能性は十分にあります。2025年3月期決算は増収増益で、2026年3月期も増益と増配を予定しており、株主還元にも積極的です。
銘柄コード | 企業名 | 株価 (円) | 前日比 (%) | 予想PER (倍) | PBR (倍) | 予想配当利回り (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
4063 | 信越化学工業 | 4,499 (6/25) | +1.90 (6/25) | 14.0 (6/25) | 1.80 (6/25) | 2.35 (6/25) |
6762 | TDK | 1,605.5 | -1.86 | 22.5 | 1.69 | 1.86 |
5471 | 大同特殊鋼 | 986.0 | +0.40 | 8.4 | 0.47 | 4.25 |
5714 | DOWAホールディングス | 4,728 | +1.07 | 10.4 | 0.71 | 3.36 |
5724 | アサカ理研 | 1,064 | +3.91 | 24.3 | 1.13 | 0.75 |
2768 | 双日 | 3,600 | +1.38 | 6.60 | 0.78 | 4.58 |
出典: 各種金融情報サイトのデータを基に作成。信越化学工業のデータは6月25日時点のものです。
最近のニュース&材料
株価への直接的な影響
2025年7月2日の報道は、株式市場に即座に反応をもたらしました。特に「都市鉱山」関連銘柄への物色が顕著で、アサカ理研(5724)は一時+9.7%高の1,124円まで急騰し、大きな注目を集めました。DOWAホールディングス(5714)や双日(2768)など、他の主要関連銘柄も軒並み上昇し、市場がこのテーマをいかに重要視しているかが浮き彫りになりました。
各社のIR動向と中期経営計画
この動きと連動するように、各社の経営戦略にも注目が集まっています。
- DOWAホールディングスは、2025年5月に発表した「中期計画2027」で、リサイクル事業のさらなる強化を掲げています。今回のクアッドの動きは、同社の中期計画にとって強力な追い風となるでしょう。
- 双日は、2025年4月にインドでのバイオメタン製造・販売事業への参入を発表するなど、インドとの連携を強化しています。クアッドの枠組みの中で、インドとのさらなる協業が期待されます。
Quad Investors Network (QUIN)という、クアッド4カ国の民間投資を促進する独立したネットワークの存在も見逃せません。QUINは既に、オーストラリアのレアアース企業「RZ Resources」への支援など、具体的な投資案件を動かしており、今後、政府間の協力と民間の投資が両輪となって、サプライチェーン構築を加速させていくことが予想されます。
今後の注目点
今後の焦点は、今年後半にインドで開催予定のクアッド首脳会合です。この会合で、今回の外相会合で合意された協力関係が、より具体的で実行力のあるプロジェクトとして発表されるかどうかが注目されます。また、中国がこの「対中包囲網」ともいえる動きに対して、どのような対抗策を打ち出してくるのか、その地政学リスクも注視していく必要があります。
よくある質問
- なぜ今「都市鉱山」がこれほど注目されているのですか?
-
理由は大きく2つあります。1つは、今回の日米豪印の協力方針で明確になったように、特定の国(中国)に資源を依存する経済安全保障上のリスクが世界的に強く認識されたことです。もう1つは、廃棄物を資源として再利用する環境問題(サーキュラーエコノミー)への関心の高まりです。この2つの大きな潮流が重なり、都市鉱山が地政学的にも環境的にも重要なテーマとして急浮上したためです。
- この協力は、すぐに日本のレアアース不足を解消しますか?
-
いいえ、短期的な即効薬にはなりません。海外での都市鉱山開発や新たなサプライチェーンの構築には、技術移転、インフラ整備、各国との調整など、多くの時間とコストがかかります。しかし、これは中長期的な安定供給に向けた極めて重要な第一歩です。これまで中国の動向に一喜一憂してきた状況から脱却するための、未来への投資と捉えるべきでしょう。
- 関連銘柄は今から投資しても間に合いますか?
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投資判断はご自身の責任でお願いすることが大前提ですが、このテーマは始まったばかりです。7月2日の報道で一部銘柄は急騰しましたが、クアッドの協力は数年単位で続く国家的なプロジェクトです。今後、首脳会合での具体的な発表や、企業間の提携(JV設立など)といった新たなニュースが出てくるたびに、関連銘柄が物色される可能性があります。短期的な値動きだけでなく、中長期的な視点で注目すべきテーマと言えるでしょう。
- 中国はこのクアッドの動きにどう反応すると考えられますか?
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中国はこれまでもクアッドを「アジア版NATO」と呼び、その動きを強く警戒してきました。今回の重要鉱物での連携強化に対し、さらなる輸出規制の強化や、独自の資源国ネットワークの構築といった対抗措置を取る可能性は十分に考えられます。これにより、一時的に市場が混乱するリスクはありますが、それこそがクアッドが供給網の多様化を急ぐ理由でもあります。
- 日本の近海、特に南鳥島沖のレアアース開発はどうなっていますか?
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こちらも重要な国家プロジェクトとして進行中です。南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)には、国内消費量の数百年分に相当する膨大な量のレアアース泥が存在するとされています。三井海洋開発(6269)などが過去に開発コンソーシアムに参加しており、関連銘柄として注目されています。クアッドによる国際的なサプライチェーン構築と並行して、自国で資源を確保する「国内鉱山」の開発も、日本の経済安全保障の重要な柱となります。
- クアッドの協力で、具体的にどの国がどんな役割を担うのですか?
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各国がそれぞれの強みを活かしてシナジーを生み出す構想です。オーストラリア: 豊富な鉱物資源を供給する「資源の供給源」。日本: 高度な精錬・加工技術を提供する「技術の心臓部」。アメリカ: 巨大な市場と資金を提供する「経済のエンジン」。インド: 新たな製造拠点と市場を提供する「未来のパートナー」。特に、東南アジアなど第三国への「都市鉱山」技術支援においては、日本の技術力が中心的な役割を果たすと期待されています。
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